プロのメカニックとともにメンテナンスブランド
「PITPRO」のこれまでとこれから

あの頃、社内にいる誰もが、危機感を抱いていたと思う。2010年頃からハイブリッドカーが爆発的に普及し、エンジンオイルを供給する私たちに求められるニーズも変わり始めた。

車の使用年数や走行年数が延びる中、経年劣化が性能の低下やトラブルの原因になることも。車本来の性能を維持、回復させ、安心・安全・快適を支えるために我々ができることに日々、試行錯誤を重ねる。
車の使用年数や走行年数が延びる中、経年劣化が性能の低下やトラブルの原因になることも。
車本来の性能を維持、回復させ、安心・安全・快適を支えるために我々ができることに日々、試行錯誤を重ねる。

ハイブリッドカーは、動力源がエンジンだけの車と比較して、エンジンオイルの使用量は少ない。また、粘度が低いオイルの販売が中心となり、バリエーションが少なくなったことで全体的な需要量を押し下げていた。これらは、私たちサプライヤーにとって、望ましくないことだった。

とはいえ、世の中の流れには逆らえない。エンジンオイル需要の先行きが不透明な一方で、一筋の光も差し込んでいた。エンジンを洗浄するフラッシングマシーンなど、カーメンテナンス用品の売上が伸長していたのだ。エンジンオイルを販売するために、カー用品店や整備工場と接点を持っていた私たちは、メカニックのニーズをつぶさに聞くことができた。

「フラッシング施工した状態を維持するために使えるものはないですか?」

メカニックからの何気ない問いかけ。これに必死に応えようとしたことが、私たちの運命を変えた。

エンジン内部は、ガソリン燃焼後のススや摩耗した細かな金属片などで汚れが蓄積されていく。性能を回復させるには、エンジン内部の洗浄(フラッシング)が不可欠だった。 原因となる「汚れ」を「防止・溶解・除去」などいろいろな角度から技術・開発スタッフとともに社内検討を繰り返す。
エンジン内部は、ガソリン燃焼後のススや摩耗した細かな金属片などで汚れが蓄積されていく。性能を回復させるには、エンジン内部の洗浄(フラッシング)が不可欠だった。
原因となる「汚れ」を「防止・溶解・除去」などいろいろな角度から技術・開発スタッフとともに社内検討を繰り返す。

既存の商品で対応しようと思ったが、ニーズに応えられる商品は見つかりそうにない。自分たちにできることの限界を感じていたあるとき、私はとある仕入れ先の担当者にダメもとで相談した。

「フラッシングしたエンジンの性能を維持できるものをつくれませんか?」

「もしかしたら当社で製造できるかもしれないですよ」

その仕入れ先は、エンジンにも使う素材を製造していたメーカーだったため、エンジンの内部構造やフラッシング施工について理解があり、私たちのリクエストをカタチにする知識と技術を持っていた。
「一度、これで試してみください」

早速届いたサンプルを、社用車のエンジンに入れてテストすることに。PITにいるメカニックの助けになるものを、自信を持って送り出したい。アイドリング時のエンジン音、アクセルを踏み込んだときのレスポンスと乗り心地…何度もテストを繰り返し、自分の五感でその効果を確かめた。

一番重圧がかかったのは燃費テスト。燃費回復効果があるのとないのとでは商品としての引きが雲泥の差だからだ。その当時の燃費測定はJC08モードという基準だった。この基準に適合するテストを行うためには、1回あたりの費用が40万円近くかかる。良い結果が出ればアピールになるが、何度もやり直すことになれば出費が負担になる。商品化した後、どれだけ売れるかは未知数だ。

燃費テストは、対象車ごとに実走行する時にできるだけ近いエンジン条件を試験室で再現し、その際の燃料消費量を測定するテスト。 ただし、基準に適合するまで商品の改善、燃費テストを繰り返し行うことになる。
燃費テストは、対象車ごとに実走行する時にできるだけ近いエンジン条件を試験室で再現し、その際の燃料消費量を測定するテスト。
ただし、基準に適合するまで商品の改善、燃費テストを繰り返し行うことになる。

「チャレンジしないのが最大の失敗だ。ベストを尽くそう」

上司がGOサインを出してくれたおかげで燃費測定が実施でき、メーカーに試行錯誤をお願いすること3回目にして、ようやく燃費改善効果を裏付けるデータをとることができた。商品とは反対にブランドネームは意外に簡単に決まった。得意先からの帰り道、車の中で上司が言った。

「商品化したら、PITPROというブランドで出したらどうだろう?」

カーメンテナンスブランドPITPROが産声をあげた瞬間だった。ただし、本当に大変なのは、ここからだった。知名度ゼロ、実績ゼロのPITPROを、取引先に販売してもらうことが、果たしてできるのだろうか。効果が期待できる根拠を具体的に示して、営業担当者と連携してテスト販売をしてくれる販売店を募った。テスト販売に協力してくれたのは数店舗。正直、期待していたより数は少なかったが、得体の知れないブランドに協力してくれるだけでありがたかった。数カ月のテスト販売を経て「メンテナンスサービスと併せて提案できる」という理由で、大阪の販売店が取り扱ってくれた。そして、一定の販売が見込めることを確認し、PITPRO初の商品『エンジンコーティングECO&SAVE』を発売することになった。

PITPRO初の商品『エンジンコーティングECO&SAVE』。 エンジンオイルに混ぜて使用することで、エンジン内部の摩擦によってダメージを受けた金属表面にコーティングしてエンジン内部の修復や保護を行うことができる。
PITPRO初の商品『エンジンコーティングECO&SAVE』。
エンジンオイルに混ぜて使用することで、エンジン内部の摩擦によってダメージを受けた金属表面にコーティングしてエンジン内部の修復や保護を行うことができる。

PITPROは「メカニックに育ててもらった」ブランドである。メカニックが集まる場に営業担当者を向かわせ、商品展示とチラシ配りをしてPRさせてもらった。さらに、メカニックとともにPITに入り、商品提案やアンケート調査を実施したこともある。メカニックが作業をするPITで、まだ解決されていないメカニックとユーザーの課題を見抜いて、それに応える商品やサービスをつくり出す。PITPROは「こんなものがあったらいいのに」という要望に応えるブランドになりたい。

新しいコンセプトの商品は、どれだけ優れたものであっても、本来の価値に気づいてもらえないこともある。例えば、「PITPROボディーアンダークリアコーティング」は販売店から「売れる気がしない」と言われた問題児だった。車の下回りの防錆処理は降雪地域ではよくやられているが、それ以外の地域では浸透していない。しかも、施工前後の違いを目視で確認することが難しく、ユーザーから「本当に施工したのか?」という問い合わせもあった。

「車の下回りは錆びるから、防錆のニーズは必ずある」

そう考えた私たちは、車の下回りに模した金属プレートをつくり、施工と未施工の違いを見られるようにした。違いは歴然。さらに、錆が発生しやすい場所をユーザーに知ってもらうための講習会を実施し、メカニックにも施工訓練をしてもらい、「PITPROボディーアンダークリアコーティング」は問題児から一転して、優良児に生まれ変わった。

錆の進行を約1年抑える 『PITPROボディーアンダークリアコーティング』 商品の必要性と良さを知ってもらえるよう試行錯誤しながらプロモーションを繰り返した結果、『PITPROブランド』 顧客ニーズ No.1商品に。
錆の進行を約1年抑える 『PITPROボディーアンダークリアコーティング』
商品の必要性と良さを知ってもらえるよう試行錯誤しながらプロモーションを繰り返した結果、『PITPROブランド』 顧客ニーズ No.1商品に。

こうしてメカニック、営業担当者、私たち商品開発担当者が知恵を出し合い、育ててきたPITPROは、次第に取扱店が増えていった。ブランドがよちよち歩きだったころは、チラシ制作の予算を獲得するのも一苦労。現在は、営業担当者のユニフォームに、PITPROのロゴが入っている。自動車レースのカテゴリー「SUPER GT」に参戦する「ARTA Project」にスポンサードするほどになった。

2005年から始まった人気のレース『SUPER GT』。『PITPRO』も他のカー用品ブランドと肩を並べ、SUPER GTマシンと共に走行する。画像は、2022年SUPER GT参戦車両です。
2005年から始まった人気のレース『SUPER GT』。『PITPRO』も他のカー用品ブランドと肩を並べ、SUPER GTマシンと共に走行する。
画像は、2022年SUPER GT参戦車両です。

車齢の長寿命化が進む中、定期的な点検や整備の重要性が高まっている。プロの目で、車のコンディションをチェックしながら、最適なサービスを提案できることが、PITPROの強みだ。誕生から10年経った今、私たちは次の10年を思い描いている。プロのメカニックを支えるブランドという価値に加え、ユーザーがPITPROという名前を見ただけで、確かな効果と安心、安全を想起するブランドにしていきたい。そのために、私たちはまだまだ成長し続けなくはならない。PITで汗を流している全国のメカニックたちとともに。

Writer富山 武史
Photographer曽田 英介

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