殻を破れPITPRO新ロゴ誕生の裏側にあった物語

あの時、私はただぼんやりとPCのモニターを眺めていた。両手はキーボードの上でじっと止まったまま。何から手をつければいいのか、さっぱりわからなかった。PITPROのロゴのリブランディングプロジェクトが、私のもとに突然降ってきたときの話だ。

PITPROは、カー用品店で自動車整備を行う「ピット」にいるメカニック、すなわち「整備のプロ」が薦めるメンテナンスブランド。
ユーザーによってクルマの使い方や状態が異なる。プロのメカニックが個々のクルマを点検・診断し、コンディションに合ったメンテナンスとしてPITPROを薦めているのだ。

PITPROはメンテナンス(人でいうところの病気になる前の未病対策)や、ときにはユーザーも気づいていないクルマの問題点の解決を手軽にできる点が多くのユーザーに好評を得ている。
店頭に置かれる商品の派手さはないが、プロのメカニックに認められ、ユーザーの安心・安全・快適を支える商品ブランドを提供していることに私はやりがいを感じている。

ユーザーのお車を「綺麗に快適に長く乗ってもらいたい」の一心で10年間、自動車整備を行うプロのメカニックからの声を聴き続け、認められる商品に成長した「PITPRO」ブランド。
ユーザーのお車を「綺麗に快適に長く乗ってもらいたい」の一心で10年間、自動車整備を行うプロのメカニックからの声を聴き続け、認められる商品に成長した「PITPRO」ブランド。

「ブランド誕生10周年の節目に、PITPROのロゴをリブランディングする。全部お前に任せるから、自由にやっていい」

そんな上司の言葉が、重くのしかかった。なぜリブランディングする必要があるのか。PITPROはメカニックに選ばれるブランドではあるけれども、ユーザーにはまだ知られていないからだ。クルマをできるだけ長く、大切に乗りたいユーザーに対して、ブランドを知ってもらいたい。だから、よりユーザーに届くブランドへと脱皮させていきたい。ただ、それをどうロゴに落とし込めばいいのか。

「自由と責任はセット」というのは本当で、言われたまま仕事をするほうがよほどラクだ。自由にやった結果がイマイチなら私の責任。そもそも、ロゴのリブランディングなんてやったことがない。

初代のロゴは、10年前にPITPROが誕生したときに生まれた。メカニックにはウケがいいし、実は自分も気に入っていた。しかし、見る人によっては無骨に見えるのだという。これからのPITPROは、もっとユーザーにとって身近であり、環境にも優しいブランドを目指す。ということは、新しいロゴも多くの人に受け入れられるユニバーサルなものがいいだろう。この方向性だけは間違っていないと思った。

PITPRO旧ロゴデザイン。プロユースとしてのカー用品ブランドらしさがあり、とても力強いイメージだ。このロゴが培ってきたブランドイメージを継承し、更に新たな価値を生み出していくのが私の役割である。
PITPRO旧ロゴデザイン。プロユースとしてのカー用品ブランドらしさがあり、とても力強いイメージだ。このロゴが培ってきたブランドイメージを継承し、更に新たな価値を生み出していくのが私の役割である。

そもそもロゴとはなんなのか? 今さら調べてどうするんだ? と思いつつ検索した。

『「ロゴ」「ロゴタイプ」の略。会社名・商品名などの文字を特別にデザインしたもの。意匠文字。企業や商品などのイメージを印象づけるためもの』

モニターを眺めて、また考え込む。商品イメージを印象づけるロゴは、言わばブランドの「顔」。トヨタもホンダもロゴを見ればそれとわかる。そんなブランドの「顔」を、自分が決めていいものだろうか。日々の忙しさにかまけて、新ロゴの仕事から逃げている節もあった。

遅々として進まない私の仕事をみかねて、「殻を破れよ」と上司が声をかけた。そんなに簡単に変われたら苦労はしない。けれど、自分もPITPROも未来に向けて脱皮しなくてはならないことはよくわかっていた。

とにかく、仕事を前に進める必要がある。プロジェクト開始から数週間後、頭の中が整理されていないまま、デザイン会社との打ち合わせが始まった。これまでメカニックと共に歩んできたPITPROを、ユーザーにも直接届くような価値あるブランドにしたい。そのために、ユーザーの目に飛び込み、焼きつくようなロゴにしたい。ひと目見れば、PITPROとその商品群を思い出してもらえるようなロゴに。想いばかりが先走り、デザイン会社には無茶を言っていたと思う。

デザイン会社を巻き込んで試行錯誤をはじめて数カ月、ようやくキーワードが3つ浮かび上がり、新ロゴの輪郭が朧げに見えてきた。

新しいロゴをどう成長させたいのか。今までのロゴイメージの殻を破るフォルムや色といったものは。 デスクの前で参考事例やカラーチャートを見ながら奮闘する毎日が始まる。
新しいロゴをどう成長させたいのか。今までのロゴイメージの殻を破るフォルムや色といったものは。
デスクの前で参考事例やカラーチャートを見ながら奮闘する毎日が始まる。

「アクションレッド」・・・未来に向けて能動的に動く姿勢・意志を表す。アクションレッドは、PITPROのロゴのためだけに考えられた造語だ。PITPROに込めた想いが、シンボルマークの中で赤く燃えている。

「フラットデザイン」・・・立体感や質感などの演出が少ないデザイン。色や形などによりシンプルなサイン、シグナルを用いて構成する。店頭、冊子、映像、WEB…etc. どこで見ても同じPITPROがイメージできるシンプルなデザイン。フラットデザインは新ロゴにぴったりだ。

そして、上司の言葉「殻を破れ」・・・プロユースのブランドというイメージを打ち破り、ユーザーがブランド価値を想起するロゴにしたい。そのためにも、愛着のある旧ロゴの焼き直しではなく、ユーザーの目線に立ち、新しいものに変えなくてはならない。

そんな考えのもと、新たにシンボルマークをほどこした。アクションレッドの四角で囲まれた中にある2つの正転の「P」と反転の「P」。既成概念に捉われない、唯一無二のデザインを添えた。

PITPRO

数十回の打ち合わせ、数十往復のメールでのやりとりを経て、ロゴは完成した。デザイン案は、カラーバリエーションまで含めたら100案をゆうに超えていた。

新しいロゴの狙いを社内に説明するときは、嫌な汗が出た。それでも、新しいロゴの隅々にまで意味が込められていることが伝わり、納得してもらえたようだ。完成の喜びもひとしお。完成を祝う打ち上げの酒も骨身にしみた。ただ、余韻に浸っている暇はない。いよいよ新ロゴの運用がスタートする。

新しいロゴの作業着もでき上がり、一歩づつPITPROリブランディングが進みはじめる。メンテナスブランド『PITPRO』にさらに新しい価値を。と、スタッフの志気も高まる。
新しいロゴの作業着もでき上がり、一歩づつPITPROリブランディングが進みはじめる。
メンテナスブランド『PITPRO』にさらに新しい価値を。と、スタッフの志気も高まる。

PITPROはメカニック専用ブランドから、ユーザーに身近なブランドへと脱皮する。ロゴを見れば、PITPROの価値や機能が想起されるようなブランドに成長させるのが私の使命だ。そのために、また私は次の殻を破らなくてはならない。PITPROのリブランディングプロジェクトは、まだ始まったばかりだ。

Writer富山 武史
Photographer曽田 英介

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